全国大会都予選トーナメント1回戦。
新人戦・春季大会と一緒に戦った農大一は単独チームへと復帰した。合宿も一緒に行なっている仲間と別れるのはさみしいが、彼らが多くの仲間を得て単独チームへと返り咲いたことは素直に祝福したい。今大会は合同Cという名前になり、新たな相棒は昭和第一学園となった。だがお互いの合宿やコロナの関係もあり、実際に顔を合わせることができたのは8月の下旬になってから。約1か月の準備期間でどれだけチームとして機能させられるかが大きな課題であった。しかし全くの初めましてというわけではない。ちょうど一年前、昨年の全国大会都予選も昭和第一と一緒に戦った。そのとき1・2年生だったメンバーがたくさん残っていた。気心が知れている選手も多い。初回の練習から良い雰囲気で合わせることができた。あとは試合でどのくらい1チームとなれるか。
今大会は約3年ぶりに有観客の試合となった。条件付きではあるものの、多くの保護者が子供たちの応援に来てくれた。入学と同時に購入してくださったのに真新しい応援Tシャツを着てくださっている保護者の方々を見て、時間の流れを感じていた。色々あったが、3年生のとって最後の大会、保護者の前で、仲間と一緒に、思い切り戦えることを感謝するべきだろう。
雨予報であったが、時折太陽も顔を出す絶好の空の下、キックオフ。
マイボールキックオフからFL野嶋が素晴らしいタックルを見せ相手を敵陣にくぎ付けにした。そのまま敵陣で落ち着いて試合を展開していく合同C。
しかしミスが多く決定機が作れない。
11分。ここも攻めながらもミスから内側が抜かれてしまう。懸命に戻るも間に合わずインゴールまで持っていかれてしまった。先制トライを許す。0-7。
14分。しかしまだまだ合同Cの時間帯。敵陣深くへと侵入すると、苦しくなった板橋有徳はたまらずペナルティーを犯す。アドバンテージをもらった中ではどんな大胆なアタックも可能だ。選んだプレイは右サイドへの大きなキックパスだった。期待の1年生SO浦野が左サイドから大きくあいた右サイドへとキック。何度も練習してきたプレーだ。このキックはきれいなスクリュー回転で右WTB石丸へと渡り、石丸は1人かわして独走。ゴール直前で捕まるも、フォローに走っていたNo.8岡本がこのボールを受け取り右隅にトライ。5-7。俄然盛り上がる合同C。
その後の板橋有徳のアタックも、FL関口などのタックルで食い止めていく。
しかしこのあたりからチームの規律の差が見えてくる。しっかりDFラインをそろえて決定的なゲインを許さない板橋有徳DFに対し、合同Cは焦りも見え始めミスや不用意な反則が増えてくる。
18分。ここでもペナルティーを犯してしまうと板橋有徳が選んだのはラインアウトからのモール攻撃。時間が無くてモール対策までは満足にできなかった合同Cは一気に押されてしまう。10mラインからゴール前まで押し込まれると、外が完全に余ったところを回されトライ。5-14。
24分。そして致命的な追加点が。板橋有徳のキックがハーフウェイライン付近へ。キャッチして右でも左でも大きなスペースを攻めることのできる大きなチャンスだったが、このボールをキャッチに行かない。ここまでバック3のキャッチミスが続いていたこともあり、ミスを恐れて1バウンドでキャッチしようとしたのだろう。ところが無情にもこのボールは大きく逆方向へ跳ね、あろうことかチェイスしてきた板橋有徳BKの胸へ。これに追いつける者は誰もおらず、そのままトライを奪われてしまった。楕円形のボールが生み出すラグビーならではのドラマかもしれないが、ミスを恐れてチャレンジしなかった悔やまれるトライ献上になってしまった。5-21。
このプレーで前半終了。
一人一人の強さや速さで負けていたわけではない。チームとしての意思統一や規律の浸透の差が出ていたように思う。選手たちもそれは感じていた。ハーフタイム中にはキャプテンCTB石坂をはじめとしたリーダー陣に続き、1・2年生選手たちも次々に発言をして修正を図っていた。
後半開始。
後半も立ち上がりは良く、敵陣で良い形で試合を進める合同C。だがやはりミスが多くなかなか22m中までは入らせてもらえない。
7分。FL井上(弥)を投入。1年生のうちから能力を見せ始め、KOBELCOカップ東京都代表セレクションに向けた監督推薦にも名を連ねていたプレーヤーだったが、膝の怪我により4月からプレーできずリハビリを重ねてきた。5ヵ月ぶりの実戦だ。期待と不安が入り混じりながらグランドへ飛び出していく。
井上(弥)の投入などで再び元気になることもあったが、この頃から疲れも見え始めたかペナルティーが増えてきた合同C。それでもDFは頑張り続けて板橋有徳の攻撃を跳ね返し続けていた。しかし徐々にそれも綻びを見せてくる。
19分。足が止まり始めた合同CのDFの隙間をつき、板橋有徳がアタック。見事に抜かれ左サイドにグラウンディングされてしまう。5-26。
それでも野嶋の強烈なタックルなど、最後まであきらめない合同C。23分には最後の3年生杉本も出場し、3年生5人が全員グランドに立つ。肉体的に精神的にとうにピークは過ぎており、脚を引きずっている選手もいる。それでも前に出る合同C。
ロスタイム。敵陣22mは攻め込む合同C。ここからはこの1か月練習してきたFWのピックゴー攻撃。徐々にゲインをしていき板橋有徳DFは下がり続ける。そして10以上のフェーズが重なった後、ボールを持ったのはまたしても岡本恵弥。我がチームから唯一KOBELCOカップに向けた東京都選抜に選ばれ関東大会で準優勝した、まぎれもないうちのエースだ。ATもDFもこの男抜きでは成立しないというまでに成長した。その男が最後のアタックを仕掛ける。ピックで低く飛び出すと右側のラックサイドへ。相手DFはもちろんいる。しかしそれでもパワーで身体をねじ込みインゴールへとダイブした。トライ。最後に意地を見せた良いトライだった。10-33。
そしてノーサイド。
残念ながら2回戦に進出することはできなかった。合同Cの活動はここで終わり、たった1か月間のチームになった。1回戦は法政のファーストジャージで戦い2回戦は昭和第一のファーストジャージで、という約束をしていたが、それも果たせず申し訳ない思いでいっぱいだ。
それでも試合後に涙の後に晴れ晴れとした表情をしていた3年生の姿が印象的だった。今年は法政も昭和第一も似たチームの雰囲気を持っていた。昨年度の3年生が能力やリーダーシップの高い子が多かったこともあり、また今年は3年生の人数も少なくて、それもあってちょっと自信が無さそうで。そんなところがよく似ていた。それでも気づけば誰もが信頼できるリーダーたちになっていた。特に我がチームのキャプテン石坂瑠惟。水泳という個人競技からチームスポーツに憧れてラグビー部の門をたたいた2年半前。部活動はおろか入学式すら無い中で始まった高校生活。ようやく登校できるようになってからも、分散登校やオンライン授業、宿泊行事は中止となり昼飯はいつも黙食。部活でも様々な制限をされる中、今日までやってきた。一日も休むことなく。キャプテンになってからも人前で話すことが苦手で、生意気な後輩たちに強く注意するのにも苦労し、プレーでもいつも恵弥に一歩先を行かれ、悔しい思いもたくさんしてきただろう。そんな中でも常にグランドに一番最初に現れ、だれよりも一生懸命に練習し、だれよりもチームのためにを考えてきた。そんな姿にいつからか多くの部員が尊敬と信頼のまなざしを送り始めていた。試合が終わって泣いている君の姿を見て、君がキャプテンに選ばれたことを疑問に思う人間は一人もいなかったはずだ。よくがんばったな。お疲れさま。ありがとう、瑠惟。
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